土間の突きあたりの階段を登った二階が

佐藤塾

寺子屋のような擦れた畳に座り机が並んでいる

五、六人ほどの中学生が英語と数学を教わる

 

生徒が先に座って待つところ

四十才前後の悲しげな目をした佐藤先生が階段を上がってくる

 

伏し目がちのあいさつ

くたびれたセーター

ときどきふり上げる前髪

背筋を伸ばし授業はまっすぐ始まる

ときに伏せた目が

熱をおび 公式を説き 文法を解くが

佐藤先生の記憶は淡く少ない

 

印象にあるのは奥さんの声

 

玄関を開け土間を通るとき

そこに面した障子戸の部屋から

あなた 恵理子さんよ

と声が聞こえる

いちども顔をあわせていないのに

生徒の歩く音でわかる

季節問わず薄暗い土間のもっと暗い部屋に

ずっと寝たままの敏感な耳

 

 

学校をやめ

寄りそう暮らし

 

  幸と不幸を 往き来する あの静かな声